迷惑な訪問者

by RENEE
May 13, 1999


(いつも夜……どうしましょう……とても急いでいますのに…)
彼女は首をかしげる。訪ずねたい人がいるのに、なぜかいつも夜なのである。
(そうですわ……確かあの方のお仕事は……。でしたら、きっと大丈夫ですわね、こんな時間に行っても……)
彼女は一人納得して部屋を出る。

部屋の外は雲の海。彼女は背の翼を広げて、やさしく翼をはばたかせる。翼の動きにあわせて、やさしい風が吹く。その心地よい風に身を任せて、ふわっと飛び立つと、地上へと降りていく。そう彼女は天使、"インフォス"の守護を命ぜられたまだ幼い天使。世界を守るため、地上へと降りる。勇者の協力を得るために。

勇者の一人に依頼をする必要があった。だから、訪問する機会を逃さないよう気をつけていたというのに……
(いつも夜なんですもの……)
地上へと降りながら、つぶやく。
(もうこれで何度目なのでしょう……この機会を逃したら、次はいつになるかわからないし……)
街の灯りが少しずつ近づいてきて、もう少しで地上だということを彼女に教える。
(ええと、あの方は……確か、この辺りにいらしたはず……)
辺りを見回して、お目当ての勇者を探す。
(あっ、あそこですね……)
彼の居場所を見つけると、そこへまっすぐに向かう。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「おい、今何時だと思ってるんだよ」
「あの……いけませんでしたか?」
なぜ怒られるのかわからないと言った表情。寝ようと思った瞬間、突然空中から『こんばんは』と言って現れたら、誰だって驚き、怒るに違いない。
「いい加減にしろよ。俺はこれから寝ようと思ったんだ」
「これから寝る……?」
きょとんとした彼女の表情に、俺はいらだちを隠せない。
「おい、なんとか言ったらどうなんだ」
「…………」
彼女は俺の剣幕に驚いて、うつむいたまま何も言わない。
「おい、いったいどんな用件で来たんだよ。こんな時間に」
いらだちのあまり、どんどん棘を含んだ口調になる俺。いけないと思いつつ、黙りこんだ彼女の態度に腹が立ち、思わずどなってしまう。
「用事がないなら、帰れよ。俺は寝るぜ」
そう言って、はっと我に返った時には遅かった。

(おい、うそだろ……)
うつむいた彼女の手元に、光るものが落ちる。
(天使が泣く?)
「す、すみません……私……帰ります……ごめんなさい。こんな時間に訪ねたりして………」
彼女は弱々しくつぶやいて帰ろうと翼を広げる。慌てて、俺は彼女の腕を掴む。
「ちょ、ちょっと待てよ」
「………でも……帰った方がいいのですよね……」
「あ、あれはことばの綾だ。あんたが黙り込んでるから、つい……」
叱られたこどものような目で彼女が俺を見る。どこか遠い記憶を思い起こさせる目。
(だ、だめだ………俺はこの目に弱い……)

「それで、用件はなんなんだ?」
とりあえず彼女を落ち着かせると、椅子にすわらせる。
「あの……お願いしたいお仕事が……」
(また、任務かよ………ろくな任務じゃないだろうが)
「わかったよ。今回は引き受けてやる」
「でも、私、まだどのようなお仕事か言っていないのですけれど」
「いいんだよ!今回だけは引き受けてやる」
(また泣かれたら、その方が困る…)
全く理解できないといった風に彼女は俺を見つめていたが、しばらくして俺が今回の任務を無条件で引き受けるとわかると、ぱっと笑顔になり、目を煌めかせる。
「ありがとうございます」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「なあ、なんであんたこんな時間に俺のところへやってきたんだ?」
彼はずっと頭に残っていた疑問を聞いてみる。すると彼女は笑顔でこう返す。
「あなたのお仕事が……だと伺っていたのので、夜でも大丈夫かと思ったんです」
「あんた、俺に『盗賊なんて』と言っておきながら、俺が盗賊だから、こんな時間に来たって言うのか?」
にっこり笑う彼女。
「はい……でも、」
「でも?」
「考えてみたら、盗賊でも夜はお休みになるんですよね。私、てっきり盗賊をしている方ってお昼間に寝ていらっしゃるのかと思っていました。本当に今日は申し訳ありませんでした。今度は気をつけますね」

絶句する彼をそこに置いて、彼女は空へと帰っていった。


例のグリフィンの創作です。私のところのコメントにある『メールの返信の相手』というの、実は、Yuka様なのです……